藻類ベースの新食品がヨーロッパを養う日は近いか?

上述の質問に対する答えは「そうなるでしょう」です。そして今回のブログのテーマがこちら、「藻類」です。前回のメドファイルズブログでは、 変化する世界における動物飼料のトレンド(英語のみ)、について専門的な見解を述べました。実際のところ、欧州の藻類産業は、欧州のブルーエコノミーの重要な一翼を担う可能性を秘めています。

当然ながら、飼料トレンドのブログで紹介したのと同じ課題が食品にも当てはまります。飼料チェーンは省略されがちですが、フードチェーンの中で、大切な最初の部分です。フードチェーンには飼料チェーンも含まれると考えられます。文字どおり、農場からフォークまで、です。

Algae-based new proteins

そこで、今回のブログは2部構成になっています。まず、舞台を整えるために、以前の飼料トレンドブログに立ち戻るだけでなく、畜産における現状の課題にも踏み込んでみようと思います。第2部では、藻類への注目が高まっていることを取り上げ、これにより新規の食品がどのように注目されるようになるかを考察します。

現状の一次生産には課題があるが、それなくしては食品も食材も存在しない

従来のものであれ、近代的なものであれ、一次生産なくして食品もその原材料も存在し得ないことは明らかです。そこで、まず一次生産について説明します。飼料トレンドに関する前回のブログで、一次食品生産における現在の課題について次のように述べました。

“この1年間、誰もが注意深くニュースを追いかけてきたので、農業分野がさまざまな面で苦境に立たされていることは、おそらく誰にとっても大きな驚きではないはずです。世界中の農家が、生計を維持するための経済的困難に直面しています。ウクライナでの戦争が始まって以来、肥料やエネルギーの価格が高騰し、欧州ではこの大きな紛争が起こる前から農家が直面していた経済的負担がさらに増加しています。”

“新型コロナウィルスと戦争によってインフレが引き起こされ、植物保護製品や必要な機械の価格など、すべての農業関連資材やあらゆる生活費に影響を及ぼしています。一部の農家では、理由もなく、肥料が手に入らないという深刻な問題に直面しています。熟練の労働力についても同様です。多くの農家が、農業を続けても支出に見合う収入が得られないため、農業をやめるか、それとも、今後の収入が減ることになっても、耕作面積を減らしてでも手持ちの資金で農業を続けるべきか、悩んでいます。“

“農業資材の高騰に加え、気候変動も農業部門に影響を及ぼしており、その影響は一向に和らいでいません。この影響は、夏の高温化、森林火災や山火事の増加、洪水や風などの異常気象という形で現れており、すべてが農業従事者の生活に影響を及ぼしています。気候変動は、予測不可能な天候、植物病害の増加、農作物中のカビ毒の急増を引き起こしており、農業経営を非常に困難なものにしています。”

飼料チェーンがフードチェーンの最初の部分を構成することを考えてみれば、飼料生産に影響を及ぼすものがあれば、フードチェーンの残りの部分にもドミノ効果を引き起こすことは容易に理解できるでしょう。飼料、エネルギー、生活の価格が高騰すると、畜産農家にはチェーンの後半でその影響が現れます。動物が健康で生産性を維持するためには、栄養価の高い飼料と豊富で清潔な飲料水が必要です。また、場所や季節によっては暖房や冷房が必要ですし、世話をする経験豊富なスタッフも必要です。動物の福祉を最適化することで、動物の幸福だけでなく、食糧生産性も向上します。もちろん、畜産農家は、病気の動物の治療もしなければなりません。しかし、獣医師の費用や動物用医薬品の価格も上がっています。そのため畜産農家は、治療には高価な医薬品が必要なこと、治療した家畜の世話に時間がかかることも考えながら、病気の家畜を屠殺に出すか、それとも獣医師を呼ぶか、慎重にお金の計算をしながら検討しなければなりません。その上、食品生産にはロスも生じます。例えば、薬漬けの乳牛から搾乳した牛乳は販売店に出せませんし、肉牛や養殖魚は成長が遅いこともあります。卵を売ることができない事態も起こりえます。

こうした事情がありながらも、食用作物や飼料作物、家畜の飼育は環境的に持続可能でなければならず、動物福祉基準は高いレベルで遵守されなければなりません。有機農業は過去数十年にわたって増加してきましたが、残念なことに、増え続ける世界人口のニーズに見合った十分な飼料や食料を生産するには、十分な効率が得られていないのが実情です。飼料チェーンとフードチェーンの最後には、常に消費者がいることを忘れてはいけません。多くの消費者は肉を好み、その数は増加の一途をたどっています。中国、インド、アフリカの下層階級の消費者が中流階級の消費者になりつつあるからです。世界の食肉消費量は、1990年の1億5000万トンから2021年には3億トンに増加するという試算もあります。しかしながら、生産された飼料や食品から農家が得られる対価は、投入資材や給与をすべて賄うにはとうてい足りないままであるのが現状です。そのため、農業が単にうまくいかないという理由で、多くの農家がすでにタオルを投げ出しているのも不思議ではありません。

Novel foods

Free Webinar: EUにおける新規食品分類と新規食品認可へのルート(英語のみ)

この実践的なウェビナーでは、潜在的な新規性食品の分類、公式協議手続き、新規性食品の認可プロセスとその要件について概要を説明します。また、弊社がクライアントをお手伝いした海洋新規食品認可の成功事例についてもご紹介します。

欧州グリーンディールによる藻類への大きな政治的・財政的後押し

上記のような現在進行中の出来事からわかるように、飼料会社や食品会社が、従来の農業や有機農業、畜産業では提供できないような、代替のタンパク質やその他の多量栄養素、微量栄養素の供給源を模索していることは明らかです。加えて、農家もまた、より安価なインプットで、価値の高いアウトプットが得られる、食品や飼料を生産する代替方法を探しています。ここで藻類は、単にビジネスとしてだけでなく、主要な食品・飼料生産者にとっても重要な手段となります。2022年11月、欧州委員会は「EUの藻類産業の強固で持続可能な発展に向けて」という構想を発表し、欧州における食品、飼料、化粧品、医薬品、栄養補助食品、肥料、バイオベースパッケージ、バイオ燃料の生産における藻類の重要性を概説しました。この構想で欧州委員会は、海藻と微細藻類の養殖を促進し、ビジネス環境を改善し、知識と技術のギャップを埋めることを目指しています。この構想は、欧州を初の気候ニュートラル大陸にすることを目指す行動計画「欧州グリーンディール」の一環です。現在、地球表面の70%以上を海が占めているにもかかわらず、海や海洋から得られる食品は人間の食糧全体のわずか2%にすぎません。

欧州委員会の2021年から2030年にかけての、より持続可能で競争力のあるEUの水産養殖のための戦略的ガイドラインでは、藻類(大型藻類(海藻)と微細藻類の両方)の養殖を促進する必要性が強調されています。しかし同時に、生産は環境的に持続可能でなければなりません。上記の構想で示された試算によると、欧州の海藻需要は2019年の約27万トンから2030年には800万トンに増加し、2030年には90億ユーロに達し、約85,000人の雇用が創出されると予測されています。現行の欧州海藻産業は、養殖施設で海藻を養殖するよりも、むしろ自然から海藻を収穫することに重点を置いていますが、微細藻類は海辺から遠く離れた内陸部の陸地でも生産できます。欧州委員会は、クロレラや藍藻類スピルリナなどの微細藻類の市場需要もEUで伸びていると予想しています。2011年から2015年にかけて、海藻を含む食品や飲料の需要がヨーロッパで2.5倍に増加したことからも高い成長率がうかがえます。

すでに資金援助も行われており、今後も行われる予定です。この数年、欧州委員会は多くの藻類関連の取り組みやプロジェクトを支援してきました。EUの研究・革新基金は公募を行っていますし(Horizon 2020、Horizon Europe)、さらに欧州海洋・漁業基金や欧州地域開発基金もあります。

藻類は高い関心を集めています。藻類は、脂肪分が少なく、食物繊維、微量栄養素、生物活性化合物を豊富に含んでいます。そのため、藻類はしばしば健康的な低カロリー食品として紹介されており、特にタンパク質含有量が高いことで知られる種もあります。藻類は、その生化学的化合物や特性から、動物や魚の飼料や飼料添加物、医薬品、栄養補助食品、バイオベースパッケージ、肥料、化粧品など、ますます多くの商業的用途に利用できる貴重な素材となっています。しかし、藻類産業の成長にとって大きな障害となっているのが、10種類にも及ぶEU規制であり、この問題は欧州委員会も認めています。その一つが新規食品に関するEU規制であり、メドファイルズでは藻類を扱うクライアントを支援してきた経験から、多くのEU規制や分野を熟知しています。

Algae food and feed

メドファイルズは藻類、EUと英国の新規食品規制を熟知

タンパク質源が従来のものでなく藻類である場合、これらの食品は新規食品規制に該当します。ただし、すでに認可されているか、歴史的に食品として使用されてきたものを除きます。同様に、油や栄養素のような単離された新成分も、EUの厳格な認可プロセスを経ていない限り、あるいは現在認可されている物質と同等で、ヒトでの代謝が変化しない場合を除き、新規食品とみなされます。藻類由来の食品添加物や飼料原料・添加物の中には、以前から市場に出回っているものもあります。

また、欧州の隣国で起きているブレグジットでも藻類と食材のブームが起こっていることを念頭に置いておくとよいでしょう。英国では、欧州大陸側よりもシンプルな枠組みで、今後数年のうちに新規食品に関する法改正が予想されます。

メドファイルズは、藻類産業におけるこうした動きを注視しており、藻類やその成分に関するクライアントの案件にも定期的に深く関わっています。この新しいトレンドの最前線に立ち、当社の専門分野である食品(特に新規食品)、飼料原料・添加物の両分野において、藻類原料ビジネスでクライアントを前進させるお手伝いができることは素晴らしいことです。藻類と藻類原料は今後確実に増加の一途をたどり、前述のように、藻類産業は現在EUからも大きな後押しを受けています。

皆様の藻類原料に関するアイデアをお聞かせいただき、さらに掘り下げていければ幸いです。このような話し合いは、お客様とメドファイルズの専門家、双方にとって実りあるものになると確信しています。

藻類や藻類食品・飼料原料について、また、それらが新たな食品や飼料の供給源となるだけでなく、収入や新たな雇用をもたらしてくれることについて、この短い文章で少しでも考えていただけたなら幸いです。この経済・環境状況において、人類はこれらすべてを切実に必要としているのです。

ヒト用食品、動物用飼料、化粧品に関する規制関連業務でお困りの際は、いつでもお気軽にご相談ください!

Mari Eskola

著者:マリ・エスコラ博士、メドファイルズ 食品・飼料・化粧品ユニット 薬事科学・報告書チーム チームリーダー 薬事シニアエキスパート

マリ・エスコラは2021年にメドファイルズ入社。以来、メドファイルズのクライアントのために実施される食品、飼料、化粧品に関する複数のプロジェクトに携わっています。マリは分析化学を専門とする食品化学者で、2002年に食品科学の博士号を取得しました。食品と飼料の化学的・安全規制の面において、欧州連合(EU)、欧州各国機関、産業界から25年以上の国際的専門知識を有します。欧州食品安全機関(EFSA)に10年間勤務し、食品・飼料中の汚染物質に関するEFSA規制リスク評価を実施。また、EFSA汚染物質ユニットの代表代行および副代表も務めました。

さらに、欧州委員会共同研究センター(EC JRC)、欧州化学物質庁(ECHA)、アイルランドのティーガス(Teagasc)、オーストリアの天然資源生命科学大学、旧フィンランド食品安全局など、欧州のさまざまな機関で食品・飼料の研究および規制に関する専門知識を有します。国際的なプロジェクトマネジメントと人材管理の経験を持ち、EFSAの科学的意見書やリスク評価書を含む科学出版物を多数執筆しています。

References:

European Commission, 2022. Communication from the Commission to the European Parliament, the Council, the European Economic and Social Committee and the Committee of the Regions. Towards a Strong and Sustainable EU Algae Sector. Brussels, 15.11.2022, COM(2022) 592 final. Available at: https://oceans-and-fisheries.ec.europa.eu/system/files/2022-11/COM-2022-592_en.pdf

European Commission, 2022. Commission proposes action to fully harness the potential of algae in Europe for healthier diets, lower CO2 emissions, and addressing water pollution. Press release, 15.11.2022. Available at: https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_6899

Regulation (EU) 2015/2283 of the European parliament and of the Council on novel foods, amending Regulation (EU) No 1169/2011 of the European Parliament and of the Council and repealing Regulation (EC) No 258/97 of the European Parliament and of the Council and Commission Regulation (EC) No 1852/2001. https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2015/2283/oj

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